WATER SCAPE

製造業に不可欠な地下水 ― 持続可能な水資源の活用に必要なこと。

対談風景

「Water Scape」は、「地下水を見える化」し、持続可能な用水確保に向けた取り組みを支援するWater Scape株式会社のサービスです。
今回は、地下水の基礎的なことから、製造業にとって地下水の活用は必要不可欠な理由、そして活用する際に重要なことなどについて、Water Scape株式会社の代表である川﨑と、熊本大学大学院 先端科学研究部の嶋田 純教授(以下:嶋田氏)に教えていただきながら、Water Scapeの取り組みを掘り下げていきます。

日本の地下水について

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水が豊富と言われる日本。地下水はどこを掘ってもあるもの?

嶋田 基本的に日本のように湿潤な国では、ある程度の深さまで掘れば、水は出てくると考えていいでしょう。ただ、水の使用用途によっては、求めている質の地下水が必ずしもあるとは限らないということは念頭に置いていてください。

川﨑 嶋田先生のおっしゃる通りです。あることはあるけれども、何に地下水を使用するか。そして、どれくらい必要なのかによると思います。
ですから、該当する地域の地下水についてしっかりと調べておくことが大切になります。

地下水は、どれくらいでなくなってしまうのか?

川﨑 地下水を考える時、容器に入った水を単純にくみ出しているイメージではなく、水は「循環する資源」だということですよね。地下水資源は雨が降ると供給されます。ですから、どれくらいでなくなるというのはその需要と供給のバランスが崩れた時ではないでしょうか。

嶋田 そうですね。単純にいつかなくなるものというよりも、その地域が持っている水の供給量以上にくみ出す、つまり需要過多になると、水位が下がり涸れてしまうということです。ですから、「どれくらいでなくなってしまうのか」は、地域性と使用量によるということになると思います。
地下水そのものの循環特性と賦存量を踏まえ、製造業が井戸やポンプなどの設備で地下水をくみ上げて使用する際に、管理をきちんと行わないと涸れてしまう可能性があります。
使う量ももちろんですが、使える量、そもそもどれくらいの地下水が蓄積せれているのかを把握することが重要です。

地下水の需要と供給のバランスが崩れた事例

嶋田 日本で一番大きな事例として1960年代から70年代頃に3大都市圏において過剰揚水に伴う大規模な地下水障害がありました。終戦後経済活動が活発になり、大量の地下水を使用した結果、水位が下がり、地盤沈下という大きな地域問題が出現したのです。
これ以上沈下したら都市機能が保てなくなるとのことで1960年代後半から、70年代にかけて東京都とその周辺自治体で地下水揚水規制という施策が行われ、基本的に地下水をくむことを禁止する条例をつくることになりました。
我が国では土地を持っていればそこに井戸を掘り、地下水をくむのはユーザーの自由となっていますから、経済が活性化してどんどん地下水を揚水した結果、地域の地盤を下げてしまうという大きな問題につながったのです。
そこで改めて、自治体が条例で地下水揚水を規制するルールを設けることにより地下水の使い方を地域全体で考える流れが形成されるきっかけとなりました。

企業と地下水の関係

製造業で重要なリソースといわれる地下水、その利用方法とは?

嶋田 地下水には、さまざまな利用方法があります。サントリーさんを例にとっても原材料としてだけではなく様々な用途で使われているでしょう。また、半導体をつくる際などに、非常に良質な水を洗浄用として必要となりますし、働く従業員たちの生活用水としても、様々なものづくりの現場において地下水は必要不可欠な存在だと思います。それらすべてが揃わなければ、製造業は成り立ちません。

川﨑 おっしゃる通りです。私たちサントリーですと、そのまま使う水というところで、天然水と呼んでいるミネラルウォーターや、ビールの仕込み水として使うこともありますが、本当に様々な用途で水を必要としています。

専門家と現場をつなぐ

製造業が安心して地下水を活用し続けるために

川﨑 地下水は地表からは見ることができませんので、地下水のことをちゃんと可視化しないとマネジメントできません。そこで、私たちWater Scapeは「地下水の可視化」を軸としたコンサルティングサービスを提供しています。
私は、地下水の使い方や活用方法は、人の健康診断や健康維持に近いものがあると考えています。

現状把握 詳細調査 伴走支援

〈現状把握〉

最初はお客様がこれまでずっと管理されてきたデータを提供いただいてそれをもとに分析し現状を把握します。いわば、身長体重の記録を見せていただくことと似ています。今の状態を「見える化」することがスタートです。

〈詳細調査〉

その上で、少しリスクが高かったり高度な管理が必要となりそうだと思われる場合には「詳細調査」と呼んでいるのですが、これは精密検査のような感じで一度入院していただくようなイメージです。
データが足りず、少し危険かもしれない、またはデータはあったとしても不安な傾向が見受けられるので分析してみましょうという場合に、データを使い、将来を予測するなどの分析を2段階目としています。

〈伴走支援〉

そこで終わりではなく、やはり私たちもお客様も水を使い続けなければなりません。ですから、定期健康診断と同じようにデータを取得したり、解析したりと伴走支援という形でお手伝いするサービスを行っています。

嶋田 川﨑さんの取り組みは、極めて有効かつ重要だと思います。やはり、地下水資源は無尽蔵ではないという実態をきちんと理解した上で、持続的に使えるような仕組みをつくり、それが正しく機能しているかをモニタリングする。そのような一連の流れを構築しない限り持続的には使えません。これは適切な考え方だと思います。
技術的に地下水を可視化すること自体は様々な専門家が提案しているのですが、企業も地域社会も専門家の分析した結果を受けて「どういうアクションをするか」という点が重要ですよね。

川﨑 はい。このアクションへの落とし込みという部分について、サントリーは次にどういうそのマネジメントシステムに落とし込んでいったらいいかという検証や実証を長く実施してきましたのでその蓄積してきたノウハウを活用して、専門家と水を活用したい現場とをつなぎ、実際のアクションにつながるようなお手伝いをさせていただいています。

水資源は地域の共有資源

嶋田 更に言うと、地下水ユーザーとして企業を捉える場合、用途に合った使える水を確保するという立場と、もう一つはその地下水を使う以上、自分たちが必要とする資源という視点だけではなく、実はみんなの地域全体の共有資源でもあること。ここを理解し、自分たちだけが自由に使うのではなくみんなに迷惑をかけないように使うというコモンズの視点に立った流れを構築することもまた重要だと考えています。

川﨑 最近のトレンドで、「ウォータースチュワードシップ」という言葉があります。これは「水を使うことに対して責任を果たしていこう」ということ。水を自分の敷地だけではなく、そこに水が流れ込む部分、出てくる部分も含めたある一定の範囲において、水を持続的に使っていくために必要な責任を果たしていきましょうということです。
嶋田先生がお話しいただいた内容は、私たちにとってウォータースチュワードシップを果たしていく上で必要なことだと思います。
そして特に我々がお手伝いしたいと強く望むことに他なりません。

嶋田 「水を使う責任」、確かにその通りですね。地下水の活用に関わるすべての方々、担当者様たちは、その水はどこから来ているのかということを頭の隅に置いていただいて、水をいかに持続的に使うかということまで思いを及ぼしていただけることを切に願っています。

Water Scapeが描く地下水の未来

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製造業が安心して地下水を活用し続けるために

嶋田 製造業に携わる企業は、地域や環境に悪影響を及ぼしてまで事業を行いたいとは考えていないはずです。これまで、自分たちの営みを持続可能にするため、さまざまな試行錯誤を重ねながら地下水を活用してきていると思いますが、この営みが地球環境に及ぼす影響を看過できない状況が見えてきている。従来のやり方では、持続可能な営みを見出す前に、取り返しのつかない事態に陥る可能性が高まっていると考えます。

川﨑 嶋田先生、その通りだと思います。ですから、企業は自分たちが自然や地域に影響を及ぼすような力を持っていることを自覚した上で、持続的に使用していけるような未来を描いていくことがこれからは大切だと思います。
私たちサントリーはこれまで、持続可能な水利用の実現を目指し、知見やノウハウ、サイエンスを蓄積してきました。これらを活用して水の分野において、人々の営みが環境に致命的なダメージを与える前に、必要なアクションがとれるよう支援していきたいと思います。製造業が益々発展していく未来に貢献していきたいですね。

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